メルローの収穫と醸造を通じて、Vivier 氏に学ぶ
アメリカ×日本。ふたつの文化が出会い、信州・高山村で、はじめての1本をつくる挑戦が続いています。
今回は、2度目の来日となったStéphane Vivier(ステファン・ヴィヴィアー) 氏と迎えた、
メルローの収穫と醸造の現場、そして先日発酵を終えたシャルドネの熟成の様子をお届けします。
このプロジェクトの熱を、ぜひ感じてください。
太陽の見えない日が続く中での収穫
「また、メルローの仕込みの時に」
そう言い残してカリフォルニアへ戻ってから2週間。2026年9月27日、Vivier 氏が2度目の来日を果たしました。
ニューヨークやオレゴンなどを飛び回る目まぐるしいスケジュールの中でも、
日本での初めての挑戦に、Vivier 氏は私たちと一緒にワクワクしながら取り組んでくださいました。
この秋は、雨の日が続きました。過去5年の9月の日照時間を比較すると、2026年は148.8時間で最も短く、 昨年より13.3時間少ない結果でした。※出典:気象庁「過去の気象データ」長野市(長野県)
メルローの収穫日となった9月28日も雨。レインコートを着ての収穫が始まりました。
Vivier 氏の教えは前回と変わらず、「とにかく食べてみること」。Vivier 氏自身もメルローを口に含み、味や香りを確かめていました。
今回は、シャルドネの収穫時よりさらにクオリティの高い仕込みを目指し、 東御でLa Maison Rustique の栽培を担っているRustique Vigneron Team(リュスティック・ヴィニュロン・チーム) が高山村にて、 2日をかけて病果をすべて取り除いた状態で収穫を迎えました。収穫したぶどうも、順次醸造所へ運び込み、迅速に作業を進めました。
全12名で8時から収穫を始め、11時頃には約1.05t のメルローの収穫が完了。続いて、破砕※1と除梗※2の工程へ進みました。
逆算と軌道修正の仕込み
醸造において、判断は繊細に、決断は大胆に。Vivier 氏を見ていると、そう感じます。 メルローの醸造は、シャルドネ以上に繊細さが求められます。当初の工程から変更も多く、 弊社の醸造担当者、委託醸造先、通訳が現場に一堂に会し、次の手順を検討していきます。理想のスタイルに向けて、逆算と軌道修正の連続です。
例えば、当初予定していたコールドソーク※3は、一切行わないことにしました。 病果は取り除いたものの、長雨による灰色かび病※4の病果により揮発酸の香りが出る懸念があり、速やかに発酵へ進める工程に変更したためです。
また、当初は種の成熟度を鑑みて、一切破砕せずに抽出する予定でしたが、一部は破砕を行うことにしました。 粒の中で起こる細胞内発酵※5に加え、破砕で出た果汁も発酵の起点となるよう、抽出方法を調整しています。
同時に、今回はメルローの他に、セニエ※6を利用したロゼワインも仕込みます。 ここまで繊細な調整を重ねた果汁は、シャルドネに続き、柔らかく、透き通った美しいものでした。
判断の裏にある、経験という土台
なぜ、あの場面で、あの判断だったのか。
どうすれば、そのような判断ができるのか。
仕込みを終えた夜、帯同したメンバーからVivier 氏へ、次々と質問が飛びました。 返ってきた答えは、ワイン文化の違いと、自身の経験に根ざしたものでした。
日本が古くからの文化や技術を受け継ぎ、先人たちの経験に学んできたように、Vivier 氏の生まれたフランスのワインもまた、
2000年以上にわたる歴史の上に成り立つ文化です。
私たちが経験したことのない大雨や自然災害。大きな気候変動に悩まされる現代ですが、個々の事象には、歴史や専門機関、
先人たちの経験のどこかにヒントがある。Vivier 氏はそう語りました。
そして、自分自身も経験に貪欲であること。
今回の判断は、畑ですべての情報を集めようとする、Vivier 氏の姿勢から生まれたものでした。
彼は普段、日本にいません。だからこそ、限られた滞在時間の中で、できる限りの情報を自分の五感でつかもうとしていたのです。
畑で繰り返していた「Eat」という言葉も、味や香りを確かめるだけのものではありませんでした。
今回の収穫では、ぶどうを口に含んだまま3分待ったといいます。そうすることで、 発酵と同じ状態を口の中につくり出せるのだと。その分析が、仕込みの判断につながっていました。
データは大切。調べることも大切。しかし、最後は、自分が感じること。
ワインづくりを通して、Vivier 氏の謙虚でまっすぐな姿勢、その生き方そのものからも、多くを教わりました。
ワインになり始めたメルローと、熟す時を待つシャルドネ
高山村を離れる9月30日。
仕込んだメルローのぶどうの粒を口にすると、しゅわっと果汁が広がります。
発酵が始まったばかりの果汁は、愛らしいマゼンダピンク色。すでに華やかで、果実味に富んだワインになりはじめていました。
発酵を終えたシャルドネは、現在、2つのオーク樽と1つのステンレスタンクで熟成中です。
それぞれがすでに異なる風味をまとい始め、りんごジュースのようにクリアだった果汁が、ワインとして熟し始めています。
これからさらにふくよかに、あるいはさらにクリアに。Vivier 氏はそれぞれを試飲しながら、その場でブレンドも試してくださいました。
メルローの収穫・醸造と並んで、Vivier 氏がとても楽しみにしていたのが、このシャルドネの状態でした。
やれることをすべて積み重ねてつくったからこその、自信と期待が入り混じったドキドキの一口。
その味に、私たちは思わずハイタッチをしました。
瓶詰めは、来年5月頃の予定です。
一体どんなワインになるのか。待ち遠しいです。
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※1 破砕:ワイン醸造時に選果後、アルコール発酵をスムーズにすることを目的に果実を潰す工程のこと
※2 除梗:ぶどうを収穫した後に、果梗から出る未熟なタンニンや雑味を防ぐために発酵前に房の実をつないでいる部分(果梗)を取り除く工程のこと
※3 コールドソーク:低温浸漬。赤ワインの醸造工程において、色やフレーバーを抽出することを目的に、
アルコール発酵を開始する前に、破砕したぶどうを低温の状態で数日間そのまま寝かせる手法のこと
※4 灰色かび病:ボトリティス・シネレアというカビによって引き起こされる病害のこと
※5 細胞内発酵:ぶどうの粒など、果実の細胞内でおきる発酵反応のこと
※6 セニエ:赤ワインを造る途中で、タンクから果汁の一部を抜き取る方法のこと